生活レベルを落とす苦痛
息子を頼らず豊かな老後を送るために、
カードを整理し、借金を完済し、旦那を支えた日々。
満額の年金と、旦那の恩恵で得る私の年金も併せて、
マンションのローンを払うことも、苦も無くできる、はずだった。
そこに至るまでの苦労があったから、その日を楽しみにしていたし、
息子が独立しても、家にお嫁さんを迎えることになっても、
何とかやっていけるだろうという、安心感だけはあった。
それが、まさかの、長年にわたる裏切りを知ることとなり、
怖ろしいスピードへ奈落の底に突き落とされることになるとは。
平凡を生きるだけしか知らない私には、想像だにできないことで、
私だけでなく、周りの誰一人として、彼を疑う人間もなく、
会社でさえ、その異様な人格に気づくこともなく、最高管理職に君臨した。
ただお金のためだけを思うなら、あの生活を捨てるのはバカだ。
ある面では、私はきっとバカなんだろう。
少しくらいは後悔したこともあるし、瞬間なら戻りたいとも思った。
それは、彼の元でも、胸でもなく、たかが生活なんだけど、
あまりにも生きていくのがしんどくて、時には心で泣き叫んだ。
でも、彼を恋しがったり、その胸に抱かれたいと思うことは、
一度たりとも、ほんの一瞬でさえも、なかった。それも悲しかった。
そんな男と一緒に生きてきたんだと思うと、自分がかわいそうにもなった。
様々な理由からやっとのことで借りられたマンションは、
約半分の狭さになり、賃貸でもあり、不便や不具合もかなり多い。
大家さんはいい人で、その優しさには救われるものの、
お風呂の排水は一度にできず、トイレも2~3回でやっと流れる。
物音や人の声はダダ洩れだし、新しい入居者のガラが悪くて恐怖を感じる。
時には爆音でテレビやゲームを楽しみたい息子は、
小鳥の声や話し声さえ遠慮して、それがストレスになっていたり。
この経験が、悔しさが、次へのステップにつながるなら、
夫婦喧嘩も別れも、廃業という苦い経験も、ムダにはならないし、
成功を掴んだ時には、苦労時代の話だって誇らしい思いで人に伝えられる。
堕ちてるとか、辛いとか、不便とか、
できる限り思わないようにしてたけど、引越の話をして以来、
夢が膨らむ一方、いろんなことが気になり始めて、
息子を急かすわけにはいかないけど、急いでほしいなと心では懇願。
息子と違って、年令も年令だし、引越は大変。
残りの時間を思うと、少しでも早く幸せになり、安心したい。
以前にはあったベッドだってほしいし、
もっと吸い込みがいい掃除機だってほしいし、
洗濯機は家の中がいいし、干す場所だってもっと欲しい。
お風呂の排水は一度ですませたいし、
トイレだって、一度でゴーッて流れてほしい。
快適な家で、部屋で、心豊かに老後を送りたい。
そんな暮らしの中でなら、
かつての目標だったホームページを作り、
アルバムを整理し、健康的に生きる努力もできる。
ここまで落ちたことで、息子にも夢が見極められてように、
もし豊かな暮らしができるなら、何がどう変化するのか。
想像だにしなかった世界を、息子とふたりで見てみたい。